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名古屋地方裁判所 昭和48年(行ウ)4号 判決

原告 平野義雄

右訴訟代理人弁護士 天野正義

同 渡辺明治

同 木村多喜雄

被告 愛知県知事 仲谷義明

右訴訟代理人弁護士 花村美樹

右指定代理人 鈴木良明

同 池田全

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

被告が別紙物件目録記載の土地について昭和四六年一〇月八日付指令海農第五一―六三九号をもってした農地法第五条第一項第三号による農地転用届出を受理した行政処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一、本案前の答弁

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、本案についての答弁

主文同旨。

≪以下事実省略≫

理由

本件土地がもと原告の父平野耕造の所有農地であったところ、譲渡人平野耕造・譲受人平野武雄外三名々義で本件土地について農地法五条一項三号の規定による農地転用届出がなされ、被告が昭和四六年一〇月八日付でこれを受理し、同月一六日付で右届出人らにその旨通知したことは当事者間に争がない。

(本案前の抗弁についての判断)

そこで、被告の本案前の抗弁について判断するに、

一、先ず、被告は、原告が取消を求める転用届出受理行為は単なる事実行為であって取消訴訟の対象となるべき行政処分ではない旨主張する。しかしながら、転用届出の受理は、都道府県知事が当該届出を有効な行為として受領する受動的な意思行為であり、その対象たる私法上の法律行為を有効ならしめるものであるから、右受理行為が違法な場合には、これによって利益を侵害されたものはその取消を求めることができると解すべきである。

二、そして、原告が本件転用届出の受理処分について、右処分が違法であるとして、その取消を求める法律上の利益を有するかどうか考えるに、原告は本件土地を譲り受けたとして現にこれを占有している者であることが原告本人尋問の結果により認められるのであるから、原告は本件転用届出受理処分の取消判決をうることにより、結局、その障害となる訴外平野武雄らの私法上の法律行為の効力を否定することができるのであって、本件受理処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有するものということができる。よって、被告の本案前の抗弁はいずれも理由がない。

(本案についての判断)

そこで、本件転用届出受理処分の取消を求める本案について検討する。

一、原告は、先ず、本件土地についての転用届出が津島市農業委員会に提出されたのは、昭和四六年八月三〇日ではなく同年九月二七日であるから、その届出には農地法施行規則六条の二第二項違反の違法があると主張する。そして、訴外平野耕造外四名が昭和四六年八月三〇日に提出した転用届出書には、その目的物件として津島市東中地町二丁目一五番の二および三と記載されていたこと、本件土地のもとの地番は津島市東中地町二丁目一七番の一であって、右届出当時は未だ一七番の三と四に分筆登記がなされていなかったことは当事者間に争がない。しかしながら、≪証拠省略≫によれば、昭和四六年八月三〇日の届出当時、訴外平野耕造外四名において本件土地を一五番の二および三に分筆して転用届出することとし、その測量もして分筆登記手続を進めると同時に本件転用届出手続をなしたものであること、その届出書には分筆後の図面を添付して本件土地を表示し、その地番も分筆後の予定地番である一五番の二および三と記載して提出したものであること、ところが、分筆後の本件土地の地番は一五番の二および三でなく、一七番の三および四と表示されて昭和四六年九月二二日に登記されたため、同年九月二七日に改めて右新地番での届出がなされたこと、津島市農業委員会においては、当初、本件土地が分筆登記未了土地であることを了承し、これを分筆後の予定地番である一五番の二および三の土地として転用届出受理手続を進め、昭和四六年九月六日には津島市農業委員会農地部会で転用承認決議をなしたが、分筆登記が未了のため知事への進達手続を留保していたところ、届出人らから同年九月二七日に分筆登記後の新地番で届出がなされたので、同年一〇月五日に改めて右農地部会の転用承認決議を経、同年八月三〇日付届出書について、知事への進達手続を行ったものであることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫右事実によれば、昭和四六年八月三〇日に提出された届出書は、その目的物件として津島市東中地町二丁目一五番の二および三と記載されていたものの、これは当時存在しない地番であったが、その所在町名、面積、所有者名および届出書の添付図面によって、目的物件は本件土地と特定されていたものとみることができる。ただ、土地の地番の表示が錯誤により誤って記載されていたため、津島市農業委員会としては後に提出された届出によりその誤記が訂正されたとして取扱ったものである。従って、昭和四六年八月三〇日の時点で本件土地についての転用届出書が提出されたということができる。もっとも、昭和四六年九月六日と一〇月五日の二度に亘り農地部会の承認決議がなされているが、右再度の決議は手続を慎重になしたものといいえても、最初の届出による承認決議のあったことに何等消長をきたすものでない。結局、本件受理処分は、昭和四六年八月三〇日に届出があり、同年九月二七日に訂正された転用届出書を受理したものであるから、転用届出が同年九月二七日になされたことを前提とする原告の農地法施行規則六条の二第二項違反の主張は、その前提事実を誤るものであり、その余の点について判断するまでもなく失当である。

二、次に、原告は、本件転用届出書には隣接農地等に対する被害防除施設の記載がない旨農地法施行規則六条の二第一項(四条一項六号)違反を主張する。しかし、右被害防除施設の記載は被害発生のおそれがある場合にのみ記載されればよいと解されるところ、原告において右被害発生のおそれの存在について何ら主張するところがなく、却って、≪証拠省略≫によれば、本件届出書の被害防除施設概要記載欄には、「隣地農地に被害のないよう工事を行ないます。万一被害をおよぼした場合は自己の責任で処理いたします。」との記載がなされていることが認められるのであって、本件転用届出書には何ら右規則違反の点が存しない。従って、右規則違反をいう原告の主張は失当である。

三、さらに、原告は、農業委員会は転用届出書の提出があったときは届出にかかる農地が賃貸借の目的となっているか否かを確認し、かつ被害の防除が十分でないときは関係者において調整が図られるよう指導しなければならないのに、本件転用届出書を受付けた津島市農業委員会は、原告が本件土地の贈与を受け、これを宅地造成して占有していることを十分承知のうえで何らの指導をしなかったのみか、届出人らと通謀して、届出の目的物件を差し替え、受付日をずらすなど虚偽の受付けをした違法があると主張する。しかしながら、≪証拠省略≫によれば、津島市農業委員会は本件土地が賃貸借の目的となっていないことを確認していることが認められ、また、目的物件差し替え云々の主張の理由のないことは前叙のとおりであり、その他津島市農業委員会が届出人らと通謀して不正に届出受理手続を行なったとの原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。従って、原告の右主張も失当である。

以上の次第であって、原告の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 窪田季夫 小熊桂)

〈以下省略〉

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